乃木ヲタ、帝劇の扉を叩く。
われらが乃木坂46の生田絵梨花さんが、Les Misérablesに出演するという情報が駆け巡ったのは、去年の夏のことだった。
「いくちゃんが!?」
「レミゼ?」
「帝劇!?」
と半狂乱状態のTLを見ながら、「なんかよく分からないけど凄い劇場で、凄い作品に出るみたいだ」という薄ぼんやりとした情報だけをキャッチした舞台観劇ど素人のわたしは、よく分からないまま「よしとりあえず凄いなら行くぞ」と謎のバイタリティを発揮し、めでたく前から9列目真ん中らへんという良席を押さえたのでした。
この段階でわたしが「Les Misérables」という作品について持っていた知識は、
〇主人公の名前はジャン・バルジャン
〇名作らしい
〇昔山本耕史(推しメン)が出ていた
これだけ。
今となっては「よくこんなノリで遠征決めたな!?」と自分に言いたいけど、結果的にとてもとても素敵な作品に出会えた機会となりました。
乃木坂46を好きになって、そしてそんな乃木坂46から舞台の世界の扉を開いてくれたいくちゃんがいたからこそ、こんな新しい感動に出会えたのだなあと思うと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
そんなわけで、以下はそんなど素人乃木ヲタが生まれて初めて観た、舞台「Les Misérables」の鑑賞記です。
終演後からずっと、熱に浮かされたかのようにメモ帳に「Les Misérablesを観に行きました。」とブログの書き出しを何回も書いては消し書いては消し、ということを繰り返していたら1週間経ってしまったけれど、ようやく何とか感想を書くことが出来ました。
なにぶん初心者ゆえ、予備知識も全くないし、名作相手に何を今更…というような内容が中心だとは思うけれど、初めて観た記念に残しておこうと思います。
また、初心者の乃木ヲタさんで、これから初めて鑑賞される方や、もしくは行ってみようか迷っている方がいらっしゃいましたら、少しでもご参考になったら嬉しいです。
【目次】
ひとまず映画版で予習するの巻
もう本当に1ミリもストーリーを知らなかったので、2012年の映画版を観てから行ったのですが、個人的には正解だった。
登場人物が多く、衣装替えもあるし、衣装の小さな相違が物語上ちょっとした鍵になってくるようなシーンもあるので、ざっくりとした全体の流れを確認しておくことでより分かりやすくなる。
特に、横文字の名前の苦手な方や、人の顔を覚えるのが苦手な方、知っている俳優さんや女優さんが出ているとそこばかり気になってしまう方(すべてわたしのことです)は予習して行ったほうが良いかも……
映画版はそもそもミュージカルを映画にしたものなので、基本的に舞台と流れがほぼ同じ。そして節目で具体的な年号を出してくれるので、シーンごとの時代背景と、時間の経過も分かる。「こういう時代のフランスの話なのか」というのを掴んでおくだけでも、だいぶ入り込みやすくなると思う。
わたしは完全に時代背景すら「えっそもそもいつのこと・・・?」って感じだったけど、予習してみたら19世紀の半ばの話ということで、ちょうど国は違えど大学で専攻していた時代と被っていたので、それでだいぶ物語への親近感が湧いた。(というか、多分トータルでこの物語を好きになった理由は『この時代の空気』みたいなところだと思う)
あとは、音楽。もちろんめちゃめちゃ有名な舞台なので、曲だけは聴いたことがあるという方は多いような気がするけど、わたしはマジで1曲も知らなかったので、それも予習しておくとより楽しめると思う。(予習したらしたで意外と「あっ聞いたことある!」という曲もあった)この辺はライブとおんなじですね。
勿論、何も事前知識ナシでまっさらな状態で臨むのもアリだと思います。ストーリーに感動する最初の一回って人生に一度しかないし、それを生の舞台という場で味わえたらそれこそ一生モノだと思う。
いざ帝劇へ
由緒ある劇場と聞いていたので、観劇経験の浅い身としてはビクビクしながら行きましたが、服装なども思った以上にみなさんラフないつも通りの私服という感じで(もちろん着物の方とかもいたけど)、ひと安心。
会場の係員さんもとても丁寧で、客席を結構まめに巡回してくださっているし、昨今何かとドルヲタ界隈で議論を呼びがちな観劇マナー云々も、ちゃんと上演前にアナウンスがあるのでこれまた安心。
あとびっくりしたのは、平日昼公演だったこともあり、芸術鑑賞の授業の一環かなんかで来ている高校生の集団がいたこと。しかも複数校。いや~タダでこの舞台見られるなんていいなあ、と羨ましく思っていたけど、終演後「寝てたわw」みたいな声があちらこちらで聞こえてきて笑った。そういえばわたしも高校生の時、ノーベル賞を受賞したOBの講演会で爆睡したし、まあそんなもんか・・・。授業の一環ってなるとしんどい人はしんどいよね・・・
それはともかく、そんな風に高校生がカリキュラムとして観に来るような舞台なんだなあ、という実感がしみじみ沸いてきて、開演前からちょっとなぜか我が事のように誇らしくなってしまうしがない乃木ヲタであった。
そんな由緒正しき、荘厳な劇場で、しかも前から9列目という超良席で、せっせとピントを合わせたはいいが「あれ、これオペラグラスいらないのでは・・・?」とそわそわしていると、ついに開演の時が・・・!(舞台は奥行きがすごかったので、結果的に9列目でもオペラグラスは活躍した)
生演奏ではじまる「囚人の歌」のおどろおどろしいイントロで一気に鳥肌が。そこからはもう一気に19世紀のフランスの世界へ。いやー夢を見ているようだった。
肝心の舞台の中身については、映画版は勿論のこと、公式HPにも詳細なあらすじと進行が載っているので(プレスの歌唱動画へのURLもあり大変親切なので、ここで予習するのもあり)、ここからは個人的に感動した「鳥肌ポイント」について書こうと思う。
生田コゼットの圧倒的なヒロイン性
まずは何と言っても我らが生田絵梨花さんであります。
いくちゃんコゼットが登場するのは、割と舞台中盤。
(それまでもアンサンブルで出ているそうなので、余すことなく見たい方はパンフレットの出演表を参照のこと。ただアンサンブルの中を目を凝らして探すよりは、初見ならばストーリーを順当に追いかけた方が楽しいのではないかなあと思う)
ロミジュリの時も思ったけど、生田絵梨花さんが舞台の上にいると、いくちゃんだけ光って見えるよね………
歌が特別うまいとか、演技が特別うまいとか、逆にアイドルアイドルしすぎていて浮いているとか、そういう「技術的に目立っている」ということではなくて、ただただ舞台の上での存在感がすごい。これがオーラというやつなのかなあと思う。
この感覚、普段乃木坂のライブとかで姿を見ているし、まあ推し補正だろうとロミジュリの時は思っていたのですが、ロミジュリとレミゼの間に実は一つヒロインものの舞台を観る機会があって、生田絵梨花さん以外のヒロインを観て、確信に近づいたような気がする。
生田絵梨花さんのヒロイン然とした存在感、というのは本当に凄かったし、それがアイドルというお仕事を通じて彼女に備わっていったものなのだとしたら、「アイドルからのミュージカル女優」という、現代では稀有な階段を駆け上っていったいくちゃんにとっては、無二の武器になるだろうなと思う。
実を言うと、事前に映画版を観たとき、正直あんまりコゼットにはハマれなかった。
わたしがこの物語に惹かれたところは、「バルジャンの人生」という物語の背景に流れている、革命へ向かってゆく時代の大きな波や、学生たちが青春を革命に費やしている姿であり、この二つのいわば「わたしの萌えシーン」に彼女はいなかったからである。
この時代の遣る瀬無さを全て投影したかのようなバルジャンと、結果として革命に身を賭したマリウスに挟まれたコゼットが、ものすごく浮世離れして見えたりもした。
実際に「民衆の歌」の直後にいくちゃんコゼットの「プリュメ街」がはじまるのだけれど、その落差にくらくらするし(お国の未来の為に屍越える歌の直後から、全力の恋の歌である)、蜂起が失敗して命からがら落ちのびたマリウスに駆け寄る、無傷のコゼットちゃんの無垢さがわたしにはちょっと眩しすぎる。彼女はそんなマリウスに「これからはわたしがそばにいるわ(うろ覚え)」というようなことを言うのだけど、個人的には正直あれだけの同志を亡くした直後のシーンで、これからはじゃあ運命の人と人生やっていこうというテンションになかなか切り替わらない。
(もちろんコゼットの境遇だって世相を凝縮したかのようなハードモードだったし、そもそも役どころとして「愛を与える人」のようなところがあるのは分かっているのだけど)
ただ、映画を観終えたときから、この「浮世離れ感」が、生田絵梨花さんがコゼットを演じる際に絶対ハマるだろうなというのはビリビリと伝わってきたし、事実やはり舞台の上での彼女はいっそファンタジーかと言わんばかりの「浮世離れ感」でもって寂しげな物語に華を添えていて、いや本当にハマリ役だなあと感動しきりであった。コゼットというキャラクターのことはきっとこれからも大好き!というテンションにはなれないかもしれないけれど、生田絵梨花さんのコゼットはこれからもずっとものすごく好きだと思う。
となんだか小難しく分かった風なことをごちゃごちゃ言ってしまったが、とにかく舞台が終わった直後から、「また見たい!」「またあのいくちゃんを舞台の上で拝みたい」という切なさにかられるような圧倒的なヒロインだったので、ヒロインないくちゃんが好きな方はぜひ見てみてください……………
相葉アンジョルラスの等身と「民衆の歌」
当初のお目当てとしてはやはりコゼットいくちゃん、というテンションで向かったわたしでしたが、舞台で実際に見て一番惹かれたのはアンジョルラスでした。ただただかっこいい。
私が観たのは相葉裕樹さんの回でしたが、まずとにかくスタイルが良い。羽織っているベストが短めで脚長効果もあっただろうけど、それにしても脚が長い。
アンジョルラスは、革命を目論む学生たちのリーダー役で、マリウスや学生たちの集まるシーンで熱弁をふるう。街中で偶然巡り会ったコゼットに一目惚れして骨抜きになっているマリウスに、「今はそんなことより大義のために動くときだ(うろ覚え)」というようなことを言う。この、「恋より革命」というような世界観がべらぼうに好きなので、とにかくアンジョルラスがかっこよくてかっこよくてしかたがない。
そして、そんなアンジョルラスの一番の見せ場はやはり「民衆の歌」。
これは映画を観た時から、舞台で聴くのをとてもとても、というか一番楽しみにしていた曲だった。
映画版は、たしかラマルク将軍の葬儀に参列した学生たちが口ずさんでいるシーンから始まった曲だったので、そういう風に始まるのだとばかり思っていたのだけれど、そうではなかった。
「Red&Black」(これもゴリゴリに学生たちが革命の野望に燃える歌)が盛り上がりに盛り上がって、曲が終わって、一瞬静かになって、その静かなテンションでアンジョルラスがひとり歌い始めたのが「民衆の歌」だったのである。
いやあのほんと、名作中の名作で、こんなのはミュージカルに精通した方からすれば常識なのだろうけど、アンジョルラスがひとりで歌い始めたとき「うわー!!ここでくるのか!!!」と座席でひとりでのけぞ(りそうにな)った。声出るかと思った。しかも歌い出しって1人なんだ!という。
それこそ「夢やぶれて」とか、「プリュメ街」とか、そういう個人の感情を歌った曲と違って、「民衆の歌」は本当にタイトル通り民衆の歌で、とにかくつまり大勢でド派手に歌う(ことに意味がある)歌というイメージでいたけれど、それがこういう風にアンジョルラスがひとり静かに歌い始めたので、その瞬間にまずおおっと鳥肌がたった。
戦う者の歌が聞こえるか?
鼓動があのドラムと響き合えば
新たに熱い生命が始まる
明日が来たとき そうさ明日が!
アンジョルラスのソロパートはこの一節。ワンフレーズずつ、静かだけど力強い歌声で、学生集団の一人一人の心に火を灯していくようだった。それに呼応するように1人、2人と歌声が増えていき、演奏も派手になってゆく。大勢が声を揃えて歌う、まさに「民衆の歌」が完成する。
そして最後に掲げられた、彼らのシンボルである真っ赤な旗がぶわっと広がった瞬間、もう自分でも何が何だか分からないけどぼろぼろ泣いていた。
アンジョルラスのように「青年革命家たちのリーダー」とか、とにかくそういう何か体制に反旗を翻す集団の先頭に立つ人物が、大義や戦略云々以上にその人の「カリスマ性」をもって人々を惹きつけるというのはよくある話だと思う。このアンジョルラスの「民衆の歌」の歌い出しは、まさにそういう「カリスマ性」でもって人々を惹きつけ、翌日の蜂起へと焚き付けていく、その火種の部分をこれでもかというくらい描き出していた。
観る前から一番聴きたかったこの曲ですが、実際に観てみてやっぱり一番好きなシーンになりました。
判官贔屓したさNo.1、エポニーヌちゃん
この作品に出会うきっかけをくれたのはコゼット、舞台で観て惹かれたのはアンジョルラスですが、一番好きなキャラクターはどう転んでもエポニーヌです…………………
もうなにからなにまでかなしい。
悲しいし哀しいし愛しい。
幼い頃は毎日自分の親に虐げられる居候だったコゼットが、誰かに貰われて行ったかと思えば、ある日突然、自分より明らかに裕福な暮らしぶりの、うんと綺麗な少女になって再び目の前に現れる。そして片想いの相手であるマリウスは、あろうことかそんなコゼットに一目惚れしてしまうという。
もうこれだけでも「運命とは…」みたいな感じで頭を抱えたくなるのに、さらにマリウスはエポニーヌにコゼットとの仲を取り持ってもらおうとする(コゼットの居場所を探してきてくれと頼んだり、手紙をことづけたり)。
「マリウス!!!!空気を読めよ!!!!」と思いますね。
そんな(?)エポニーヌちゃんのソロの見どころはやはり「on my own」であります。
二幕始まって割とすぐのソロ歌唱で、一幕の「民衆の歌」に大感動スマッシュブラザーズかつ、休憩を挟んでやや頭が現代日本に戻ってきてしまっていたところを、またガツーンと雨の降りしきる夜のフランスに戻してくれる本当に素敵なシーン。「あの人に恋して世界はキラキラと輝き出したの」みたいな曲はよくあるけど(というか「プリュメ街」がそうですね)、これはその反対で「あの人がいないから世界はよそよそしい」という曲で、ストレートに強い言葉がグサグサくる。とにかく切ない。
さっきコゼットというキャラクターをどうしても手放しで好きにはなれない、という話をしたけれど、たぶんエポニーヌちゃんに感情移入しすぎなのが一番の原因だと思う。
ただ、やっぱりどうしてもこういうキャラクターが好き。やっぱり舞台で見てもエポニーヌちゃんが好きだった。
ソロ以外でも、「プリュメ街」の後半、コゼット、マリウス、エポニーヌの3人での歌唱になるのだけど、ここのエポニーヌの「彼が求めたら捧げてしまう」という歌詞がとても良い。
たとえ他の女と結ばれることだとしても、彼の望みなら叶えずにいられない、というせつなさがぎゅっと詰まった素敵な訳詞だなあと思いつつ、四六時中ヲタク脳なので頭の片隅で「アイドルとヲタクみたいだな・・・」とちょっと思ってしまった。ごめん。推しが求めたら捧げてしまう・・・
それはともかく、エポニーヌちゃんもほんとめっちゃよかったので是非注目してください・・・
以上3点、個人的に震えるほど良かったポイントでした。
終演そして現在とこれから
観劇後、そのまま土日は東京に滞在したので、東急プラザ銀座のキリコラウンジにも行った。
乃木坂46「インフルエンサー」のMV撮影現場となったラウンジである。
「インフルエンサー」が本当に大好きなので、大好きな曲が生み出された空間が目の前に現れた時は感動した。東京ってこういうロケ地がゴロゴロあってすごいと思う(田舎民)
乃木坂46というアイドルを好きになってもうすぐ3年が経つ。
好きでいるうちに、彼女たちはどんどんその世界を広げていって、わけも分からず追いかけているうちに、ヲタクもたくさん新しい世界に出会った。
まずアイドルのライブに行くのも初めてだったし、当初はペンライトの振り方すら分からなかった。乃木坂ちゃんが使ってますって言わなければ手も出さなかっただろうデパコスを買ってみたり、基礎化粧品を変えてみたりもした。乃木中で取り上げられてた食べ物をわざわざネット通販で買った。
そしてそして、彼女たちが出ていなければ決して出会えなかっただろうたくさんの作品に出会えた。
本当にこの曲の詞の通り、乃木坂ちゃんを追いかけて追いかけてここまでやってきたなあ、というようなことを考えながら、実際に彼女たちが踊った空間で食べるランチは、お店の敷居が高すぎて緊張であんまり味がしなかった(笑)でもおいしかったよ…
それから気づいたらわたしは、全国ツアーが当たらなかった分をレミゼ名古屋公演に全部賭けていて、なんとか名古屋であと3回、生田絵梨花さんのコゼットを見る機会にありつけることになった。
一般販売の初日、名古屋公演が行われる中日劇場のあるビルには、「このビルってこんなに人が溢れることあるんや…」というくらいの購入待機列ができていて、キャスト表と睨めっこをしながら並ぶ大勢の演劇好きな方々を眺めながら、(もちろんみんながみんないくちゃんのファンではないし、そもそもなにひとつわたしの手柄ではないのだが)やっぱり少しうれしくなった。
そして生田絵梨花さんの岩谷時子賞(奨励賞)受賞とのニュース。わたしはもしかしたら、何か伝説が生まれるその瞬間に立ち会えているのかもしれないなあという気持ちでいる。
君がいる場所が分かったら、僕には地図になる。わたしの地図には今、中日劇場への道順が描かれている。
生田絵梨花さん、ここまで連れてきてくれてありがとう。
名古屋公演でまた会える日を楽しみにしています。